大相撲野球賭博騒動
-多くの力士が野球賭博に関与し、TV中継が中止に-

現役大関が解雇され、2010年名古屋場所のTV中継が中止される事態に追い込まれるというショッキングな事件の発端は2010年5月20日に発売された週刊誌による報道だ。

内容は大関・琴光喜が阿武松部屋の床山である床池の誘いを受け賭博に参加したとされ、また床山の兄の元幕下力士である暴力団関係者に1億円の口止め料を払うように恐喝されているという内容。

この報道を受けて本場所中にも関わらず5月場所14日目に警視庁から琴光喜は事情聴取を受ける。「まったく知らない。信じられない」とこの時点では琴光喜は協会に対して賭博への関与を否定していた。ちなみに本場所で琴光喜に対しては土俵入りの際から声援は小さく、ブーイングこそマイクに拾われる事はなかったが、終始微妙な空気が館内を包んでいた。

そんな中、元幕内・片山の片山伸次氏が琴光喜の賭博関与を証言。

片山氏の証言を待つまでもなく角界での賭博横行は力士の未成年飲酒と並んで常態化していた部分はあった。しかし、もう当時は2010年。しかも悪い事に角界で不祥事が連発している中で世間はそれを許さなかった。


6月11日、琴光喜とは別の力士が野球賭博に関わっていた事が協会から発表され、同時に14日までに正直に賭博をした事があると申告すれば厳重注意処分(事実上のお咎めなし)にとどめることが発表された。

すると野球賭博以外の賭博を含めて実に65名が自己申告。この中には当初は否定していた琴光喜も入っていて「やっぱり」という声がファンから聞こえてきた。


これにて幕引きかとも思われたが、協会に文部科学省から処分が甘すぎるとクレームがついた。協会は方針転換し、厳罰に処す事に。

まずは事実関係をクリアーにする為に6月21日に第三者による特別調査委員会たる委員会を立ち上げ、調査。この時点でも申告した力士は琴光喜のみが公表されている状況だったが、元関脇・貴闘力の大嶽、元幕内・時津海の時津風、そして豊ノ島、豪栄道、豊響ら期待に若手日本人力士が関与しているという情報がどこからともなく漏れていった。


7月4日、ついに処分が発表された。ここでは9月8日の追加処分も含めて列挙したい。

以下にまとめた。紫は賭博開帳図利罪で逮捕、赤字は後に賭博容疑で略式起訴。青色は後に賭博容疑で書類送検。

○解雇
大嶽(元関脇・貴闘力)琴光喜(大関)古市(幕下、元十両)床池(床山)

○年寄へ2階級降格、10年間は昇進なし
阿武松(委員、元関脇・益荒雄)

○年寄へ1階級降格、5年間は昇進なし
時津風(主任、元幕内・時津海)

○野球賭博に関与しながら申告せず2場所の出場停止
松谷(十両)

○野球賭博に関与しながら申告せず1場所の出場停止
若力堂(三段目、元幕下)

○1場所の出場停止となる謹慎
雅山(幕内、元大関)豊ノ島(幕内、元関脇)豪栄道(幕内、元関脇)豊響(幕内)若荒雄(幕内)隠岐の海(幕内)普天王(十両、元小結)千代白鵬(十両、元幕内)清瀬海(十両、元幕内)春日錦(十両、元幕内)大道(十両)光法(幕下)大和富士(三段目、元幕下)、松緑(三段目、元幕下)、能登櫻(序二段、元三段目)、大瀬海(序二段、元三段目)、松乃海(番付外、元三段目)

○7月24日までの謹慎
武蔵川(理事長、元横綱・三重ノ海)、出羽海(理事、元関脇・鷲羽山)、九重(理事、元横綱・千代の富士)、陸奥(理事、元大関・霧島)、八角(役員待遇、元横綱・北勝海)、佐渡ヶ嶽(委員、元関脇・琴ノ若)、境川(委員、元小結・両国)、春日野(委員、元関脇・栃乃和歌)、宮城野(元十両・金親)、木村瀬平(年寄、元幕内・肥後ノ海)

○厳重注意(野球賭博に関わった力士)
嘉風(幕内)薩摩響(幕下)城ノ龍(幕下)豊光(三段目、元幕下)北勝国(序ノ口、元十両)

○厳重注意(野球賭博以外の賭博に関わった力士)
白鵬(横綱)、稀勢の里(関脇)、琴奨菊(小結、元関脇)、鶴竜(幕内、元関脇)、朝赤龍(幕内、元関脇)、栃乃洋(幕内、元関脇)、垣添(幕内、元小結)、春日王(十両、元幕内)、琴春日(十両、元幕内)、将司(十両、元幕内)、霧ノ若(十両)、旭南海(十両)、十文字(幕下、元幕内)、出羽鳳(幕下、元十両)、鬼嵐(幕下)、藤本(三段目、元幕下)、大上総(三段目)、大忍(三段目)、霧桜(三段目)、山竜(序二段、元三段目)、虎受(序二段、元三段目)、受磐(序二段、元三段目)、大天白(序二段、元三段目)、金井(序二段)、霧嵐(序二段)、紀の川(序二段)、大花(序二段)、霧丸(序二段)

○厳重注意(親方衆)
松ヶ根(元大関・若嶋津)、粂川(元小結・琴稲妻)、白玉(元幕内・琴椿)、東関(元幕内・潮丸)、若堂(元幕内・皇司)、中川(元幕内・旭里)、木村寿行(行司、幕内格)


厳重注意(裏方)
琴千歳(若者頭、元幕内)、前進山(若者頭、元十両)、白岩(若者頭、元十両)、琴吉(呼出し、幕内格)、松男(呼出し)、悟(呼出し)、床佐渡(床山)、床淀(床山)

これらの他に未成年力士3名の存在が明らかになっている。


協会の対応への非難も多かった。当初は正直に申告すれば厳重注意としていたにも関わらず、結局は出場停止も含めた厳しい処分が下った。これはだまし討ちと言われても仕方ない。琴光喜は「嘘つき、琴光喜」などと非難を浴びたが、協会も嘘つきである。

さらに協会の特別調査委員会には掛け金が軽微ということで厳重注意にとどめられた城ノ龍が警察の捜査では悪質の判断され起訴されるなど調査精度そのものに疑念が残った。しかも城ノ龍に追加処分は下されなかった。


解雇された大嶽、琴光喜は2010年2月の理事選で貴乃花親方へ投票した。それもあってか特に琴光喜解雇に反発した貴乃花は7月4日の理事会で辞表を提出する前代未聞の抗議をしたが、これは受理されず。貴乃花自身も次の日朝稽古を見て何かを感じたのか辞意を撤回した。この時の辞表は理事の辞表なのか協会そのものの辞表なのかは定かになっていない。ファンは何がどうなっているのかとますます混乱。


7月6日にはNHKが7月場所のTV、ラジオ中継中止を決定した。この日までにNHKへ10000件以上の意見が寄せられ、そのうちの68%が中継反対だったから世論の理解が得られていないというのがその理由だった。慌てた中継賛成派のファンが巻き返しを狙い中継中止反対意見をNHKに送ったが、時既に遅し。これも不公平で中継があるのが普通なのだから中継中止決定前に中継賛成意見を送る人は少ない(それでも賛成意見は13%もいた)。

中継中止の代わりにNHKは『大相撲・幕内の全取組』たるダイジェスト番組を18時台に放送する事になったが、その前の18時からのニュースで「白鵬が勝って連勝を○○に伸ばしました」などと重要な結果を言ってしまうから一部のファンの怒りを買った。ダイジェストを放送してもらえるだけありがたいと言えばありがたいのだが…。

また、在野の相撲専門誌で知られていた『大相撲』が発売中止に追い込まれ廃刊となった。

賜杯を筆頭に外部からの表彰も7月場所は辞退。これに場所前から優勝間違いなしと目されていた白鵬は「国技を潰す気か」と反発。実際に優勝して臨んだ表彰式では涙を見せた。

9月場所からは放送が再開されたが、解雇された大嶽は会見で協会を批判した上で「あと1年くらいしたら、全部分かるから」と不気味な予言を残して協会を去った。

これが何を指しているのかは不明だが、この事件の捜査過程で大相撲で八百長が行われていた事も発覚した。非常に深い爪痕を残した事件である。

力士が賭博にハマっている事は古くからの公然の秘密でファンも知っていたが、時代がそれを許さなくなっていた。



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